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福岡アジア美術館で出会った映像作家シャーマン・オンの才能 [マレーシア]

映像文化の研究者であるK・N氏の紹介で、12月9日日曜日の午後、福岡アジア美術館の交流スタジオまで足を運んだ。9月から福岡に滞在して映像作品を制作していたマレーシア籍のアーティスト、シャーマン・オン氏の完成披露上映があると聞いたからである。
福岡アジア美術館はアジアの近現代美術に焦点を絞って収集していて、アジアのアートに限れば、世界にも例を見ない唯一の美術館である。ここでは展示だけでなく、アジアの美術作家や研究者を招聘して制作や研究といった美術交流をも追求しているエネルギー発散型の美術館である。そしてそのエネルギーとは、アジアのパワーに他ならない。このアーティストらを滞在させるレジデンス事業は8回目になるそうで、これまでにさまざまなジャンルから招かれていて、映像分野は筆者の記憶ではインドネシアのハヌラ・ホセア(確かドイツを活動拠点にしていた人)以来ではなかろうか。
さてシャーマン・オン氏は滞在中に、言葉に代えて組み写真で視覚的に表現した“ビジュアル俳句”や、小学生たちとマレーのポップミュージックに合わせて映像作品を作るワークショップを行ったほか、今回上映された110分のデジタル長編「はし/hashi」を制作したそうである。
まず「はし/hashi」について感想を述べるが、期待以上に完成度が高かった。特に予備知識も持たずに観て、そののちに館内の彼に関する展示や上映時のトークを通して思ったのだが、きっと以前から温めていたアイデアが根っこにこそあれ、これはどうも即興の作劇のようだ。チラシには「福岡に住む14人の出演者の体験をもとに、その多様なイメージからストーリーを構成」とある。また展示のボードにはこうも書いてあった。9月12日に福岡到着。9月25日に出演者を募集して9月29日と10月6日にオーディション。10月19日にクランクインして31日にクランクアップ。11月に編集。日本にやってきてからシナリオハンティングを兼ねながら出演者を探し、日本語もわからないのに日本人の物語を紡いでいく(完成作にはちゃんと英語字幕まで付けられていた)。そしてその作品は、滞在中の3か月以内に完成しなければならないという制約。そう、これはまるで映画製作版の「料理の鉄人」ではないか。そういう意味では、よくできていたと言いたい。もう少し編集をやり直して、いろいろなところで公開すればと思う。
撮り方がまず実験的で、監督独特の哲学と美学が入り混じってはいるが、ドラマとしてはまあ見やすい。30歳ぐらいのジュンコと職場の先輩のシノさん、そこに出入りする弁当配達のまだ若いモモ、三人の女性の日常からそれぞれの世界観を静かに炙り出す。ジュンコは、ビル影が胸の中にまで忍び込んできたのかのように、心の片隅に闇を持った都会のワーキング・ウーマン(古くさい表現ですみません)で、シノさんは年齢的にも自分のペースを持って生きている中年女性。モモは頭のねじが少し緩んでいるかのように夢見がちである…。彼女らは素人役者ばかりだと思うがそんなにつまらない演技はしていない。やや戸惑うのは、ジュンコやモモの役をそれぞれ2人、4人の複数の役者(顔が似ているわけでもない)が110分間のなかで交替で出演していることである。シャーマン監督は「皆アマチュアで仕事を持っているので、全編通しての出演が難しかったから」と説明したが、どうも怪しい。一人のキャラクターが、劇中に何通りも顔・姿・声を変えて登場してくるなんて、何とも意味深ではないか。観客は誰もが深読みしたことだろう。この作品を、例えば欧米で上映した場合に日本人顔の区別をきちんと付けてもらえること(いやこの場合は区別が付かないほうがいいのか?)を祈りたい。
劇中で、正確には記憶していないが、“橋の端で私はクジラの歌を聞いて、そして箸を折って…”といった感じの詩が何度か登場する。掛け言葉が、野田秀樹のように美しくハマっていればいいのだけれど、そうでないからちょっと後味が悪かった。
タイトルの意について、シャーマン監督はトークで、滞在中に学んだ日本語の“はし”だと言い放った。つなぐ役割を持つ橋、不安定な状況である端、ご飯イコール安定を表す箸。これらトリプル・ミーニングを持つ日本語の“はし”は、人の生活を表すにいい言葉だと感じたそうだ。まあ、いろいろ言っても勝負は映像で。もう少し編集をやり直せば、もっといい映画になると思う。
「はし/hashi」の上映後、休憩を挟んでシャーマン・オン監督のシンガポールで撮った短編作など5本からなるプログラム(おまけが付いて正確には6本)が続いた。これらのことは、また後日書こう。
(2007年12月22日)

[追記] 「はし」は、2008年4月に開催された第21回シンガポール国際映画祭で上映されたそうだ。
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