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トルコのインディペンデント映画「Köpek」 [トルコ]

トルコ=スイス映画「Köpek」(2015)は、ボスポラス海峡を見渡せるイスタンブールの街で繰り広げられる3つのドラマで構成された作品だ。どの物語も、朝の始まりから日が暮れるまでの一日の出来事を同時進行で描いていて、いつもどおりの普通の一日のようにして幕が開くものの、すべてがすべて悲劇的な結末を迎える。それぞれのストーリーの登場人物は、物売りの少年、村出身の女性、世間から眉を顰められているトランスジェンダーと、いわゆる社会の弱者ばかりで、ダイナミックな活力を持つ大都会の中では、非力な彼らの存在が否応なしに運命づけられていく。
飲んだくれの父親がいるものだから、学校にも行かずに、警察に追っ払われながらチリ紙を売って歩く少年。スターバックスやマクドナルドが並ぶ街中を巡りながら、母犬に死なれて取り残された一匹の仔犬に出会う。こういう境遇の少年にしか、命の尊さが理解できないという、都会の冷たさ。仔犬を足蹴にする高級居住地区の警備員に我慢ならず、少年はその警備員を刺してしまう。夕暮れにパトカーのサイレンが響き渡る…。
バス運転手をしている夫、8歳ぐらいの娘と、家族三人で平凡に暮らしている主婦。突然の連絡で呼び出された彼女が再会したのは、10年前に故郷の村で付き合っていた恋人。兵役で命を落としたはずの彼がじつは生きていて、彼女の居所をやっと知り当て、出てきたのだという。復縁の申し出を固辞して家に戻った彼女は、他の男性と密会していたことを知って逆上した夫に言い訳を聞き入れてもらえず、一方的に腹を刺されてしまう…。
遠目からみるとスタイル抜群のグラマラスな美女、しかしその正体は、男っぽい顔つきが完全には隠せないトランスジェンダー。街中では美女としてちょっかいをかけられ、または異端な存在として疎ましく扱われている。かつてのボーイフレンドのことが忘れられない彼/彼女は、女性と結婚してしまったその男を追い回すものの復縁はありえず、飲んだくれた挙句、夜の酒場の男たちに暴行を受ける…。
Esen Işık監督という女性監督による第一作だが、ところで、作品の冒頭で故Pippa Bacca氏に捧げるとクレジットされていた。この人物って誰?と、観終わってネット検索した結果、花嫁姿で中東を目指してヒッチハイクの旅に出るというパフォーマンスを試みたイタリア人の女性前衛芸術家で、イスタンブールで消息不明となったのち、トルコ国内で埋められた全裸遺体となって発見されていたことがわかる。イスタンブールでの暮らしでは、ただただ泥だらけになるしかすべがない登場人物たちの人生の暗示が、ここに意図されているのだろうか。
振り返ると、劇中に、このPippa Baccaを思わせる花嫁姿の女性ストリートミュージシャンが、登場人物たちも往来する広場に立って、ギターを手に熱唱している場面があった。行き交う大勢の人々に対して、自分という存在を、一人でもいいからと何とか印象付けようとしているかの如く。
今年2月から3月にかけて開催された第15回ifイスタンブール・インディペンデント映画祭の上映作品のひとつ。
(2016年3月7日)
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