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第72回ベネチア国際映画祭上映の「Tharlo(塔洛)」 [チベット]

第72回ベネチア国際映画祭のオリゾンティ部門で上映されたなかの中国映画「Tharlo(塔洛)」(2015)を観た。前作「オールド・ドッグ」(2011)で第12回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞している中国・チベットのペマツェテン (Pema Tseden) 監督の最新作だそうだ。全編モノクロの、チベットを舞台にした人々の生き様と聞けば、映画祭ともなるとまず観たくなる一本だと思う。とくに本作は映像に力があり、観終わって、観てよかったと思えた。
40歳過ぎだと自称する主人公の羊飼いの男は、孤児として育ったので、じつは正確な名前も年齢も自分ではわからないが、冒頭から5分ほどかけて毛沢東の演説を諳んじる記憶力を披露すれば、羊を数える計算力もある。長髪を束ねたワイルドな、しかしやや田舎者っぽい風貌は、チベットの村ではポニーテール(総髪とでも訳す?)と呼ばれている。彼は、いまだ持っていないID証を申請するため、警察署長の薦めで街の写真館までバイクで向かう。しかし顔写真を撮る前に、乱れに乱れたその長髪を整えるよう館主に言われ、まず理髪店へと。
そこで彼の髪を丹念に洗ってくれた若い女性店員が、羊飼いとして生きてきた彼の人生を大きく変えることになることは、想像に難くない。女性からカラオケに誘われ、酔って彼女の部屋に一泊する。その晩の「羊を売り払った金で二人でラサへ行こう」という、彼女の誘いの言葉が彼の心には残っている。
全体二時間ほどの、ここまでの半分は、警察署長や写真館主、理髪店の女性店員との会話劇がかなりを占めるが、それ以降になって、彼の日常が描写されていく。一人暮らしの羊飼いの生活は、ラジオの音声を別にすれば、あまりにも静寂だ。しかしそこには、現代社会の都会の単身生活にみられるような惨めさはないようだが…。
再び、街の理髪店を訪ねた彼は決心をしている。女性の前に大金を積み上げ、彼女の手でこれまで伸ばし続けてきた髪を丸刈りにしてもらう。鏡越しのその光景はまるで、羊の毛刈りそのもので、あまりにも切ない。しかし翌朝、彼女が大金とともに姿を消してしまうことも、これまたわれわれにとっては想像に難くないこと。
名もないとはいえ、チベット人であることをそう意識するとしても、意識しないとしても、この男の運命が、これでいいはずがないじゃないか! この作品は、そういう思いを僕に鮮烈に植えつけるが、決して哀れではない男の最後の姿が一方で勇気づけてくれる。彼はこのあと自分を見失うことはないはずだ

(2015年9月24日)

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18th BIFFから/ドキュメンタリーで観た、スケールの大きなアートプロジェクト [チベット]

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写真は、第18回釜山国際映画祭の会場で展示されていた、チベットの土を入れて運んだという袋の現物である。チベットの土20トンを運び出すというアートプロジェクトを追った、インド=米国=韓国合作のドキュメンタリー「Bringing Tibet Home」(2013)は、観逃していたら絶対に後悔することになっただろう作品。観ておいてよかった!
撮ったのはTenzin Tsetan Choklay監督で、18th BIFFがワールドプレミア(10月5日にLotte Cinema Centum City 9で鑑賞)。しかし覚えておくべきは、監督よりもまずは、Tenzing Rigdolというニューヨーク在住のチベット現代美術のアーティスト。本作の主人公にして、カメラがその舞台裏を追いかけるこのアートプロジェクトの仕掛人である。
まず冒頭で、アーティストTenzing Rigdolについての紹介がある。チベットのアイデンティティーを強く意識した彼の作品群が登場する。色鮮やかな現代的曼荼羅の製作風景や、その上で踊るパフォーマンス。なかでも中国による制圧を下敷きにした、ライフルを構えた嬰児の曼荼羅が、強烈な印象を残す。
古い写真や彼の母親へのインタビューで、一家は中国による制圧から逃れるために、ネパール、インド、米国へとわたってきたことが語られる。彼じしんは両親の亡命先ネパールで生まれ、チベットの土を踏んだことはない。チベットが生まれ故郷の彼の父親は癌でこの世を去り、やはり二度とチベットの土を踏むことはできなかった。いや政治的に故郷を離れざるを得なかった多くの人々にとっては、今の政治情勢では、土を踏むなんてできないことなのである。ニューヨークにいるTenzing Rigdolは、チベット難民たちのために、故郷チベットの土、20トンを運び出すという、途方もない企画意図を誓いのように述べると、ネパールのカトマンズへと飛んだ。
本作の中では何度もマップが登場して道筋が示されるので、それを御覧いただければわかりやすいのだが、このプロジェクトはチベットのシガツェの土20トンを、中国から国境越えでネパールに運び込み、それをさらにインドへと輸送して、チベット亡命政権のある北インドのダラムサラまで届けるというものだ。
Tenzing Rigdolに同行するのは、もちろんプロジェクトの記録となる本作の監督であり、カメラマンでもあるTenzin Tsetan Choklay監督。ふたりはともに亡命チベット人の子として生まれ育った、幼少時からの知り合いだということが、後日読んだBIFFのニュースに書かれてあった。Rigdolは協力してくれる自分の叔父や、このプロジェクトのマネージャーを引き受けてくれたTopeng Tseringとカトマンズで合流。しかしカトマンズに住む叔父は、中国からチベットの土を持ち出すのは、どこに中国のスパイがいるかわからないのに極めて危険な行為だと言う。
彼らは報酬を示して、フィクサー的な人物に接触を試みた。ここの部分のドキュメントはまるで諜報活動のようだ。撮影は胸にさしたボールペン型の隠しカメラで行われ、撮った映像も相手の顔の部分にはボカシが入る。「一週間で土のサンプルを持ってくる」というこの人物を、果たして信用していいものか? まずはこの人物とのビジネスに賭けてみることに。
この「何でも屋」に一週間の期限を与え、Rigdolたちはチベット=ネパール友好の橋が架かる、中国との国境に行ってみた。国境越しに、生まれて初めて見るチベット。Rigdolたちはラサ・ビールで乾杯。ただし国境付近の様子はすべて、隠しカメラで撮影している。試しに、携帯で映像を撮ってみたところすぐに中国警察が飛んできて、データ削除を強く求められた。たいへん敏感なエリアなのである。
しかし、さて、土の持ち出しを依頼した人物から、中国側の許可の関係でと、期限の遅れを通知してきた。その後も何度も先延ばしの連絡が入り、Rigdolたちもさすがに不安になってくる。おまけに費用の上乗せ要求を繰り返してくる。危険ではあったが、プロジェクトマネージャーのTopengを中国へと送り込んだ。「トラックが無事に国境を越えてからしか、報酬は払わない」という約束は譲れない。さて、ネパール側で到着を待つRigdolの祈りは通じるのだろうか。
ドキュメントを撮るうえでの演出なのかもしれないが、ネパールの叔父さんの占いは事態の好転を示した。けれども中国側が本当に輸出許可を出さないのだとしたら、20トンもの土を合法的に運び出すことはもう不可能。ならば密輸しかない! Rigdolたちは決心した。以下の部分は、隠しカメラの映像である。
夜中、国境を流れる激しい川の上にワイヤーが渡される。それを介して、土が詰められた大袋が、一袋ずつ送られていく。闇なのでどれくらいの人数かはわからないが、人海戦術で、ついに、チベットの土20トンがネパールへと届いたのだ!
さあ今度は別の袋に詰め替え、中国製の土として合法的にインドへ出すのだ。3週間後、ネパール=インドの国境で輸送トラックがインドに入ったことを確認すると、Rigdolは列車で、インドの北に位置する最大のチベット難民地区ダラムサラへと先回り…。と、ここまでは本当に驚きばかりの密着ドキュメントだった。そして後半は、感動のインスタレーションというか、このアートプロジェクトのクライマックスを観ることになる。
芸術とは何なのか。ひとつの哲学なのか。そういう大それたことまでを考えさせる映画(ドキュメンタリー)であり、そして、インスタレーションというものにかかると、映画映像(ドキュメンタリー)もその一部に過ぎないということを強く認識した。
2011年10月26日に「Our Land Our People」と題したアートプロジェクトが行われることが、ダラムサラの街に、その前日になって告知された。20トンもの土を持ち込んだRigdolたちは、何よりもまずダライ・ラマ14世に謁見してチベットの土を捧げた。微笑みを浮かべたダライ・ラマ14世は人差し指をつかって、トレイにのった土の表面に、チベット文字でゆっくりと優しく「チベット」としたためられた。この瞬間、不覚にもわたくしの眼から涙が流れた…。
その後、広場に広く敷きつめられた土を前に、故郷チベットが恋しいお年寄りから、チベットを知らない子どもたちまで大勢の人々が集まり、プロジェクトの幕が開く。チベット亡命政府の首相による開幕挨拶では、Tenzing Rigdolは、もはやアーティストにはとどまらずヒーローとなった!
人々は順々に土を踏みしめ、僧侶たちは祈り、お年寄りたちは号泣し、子どもたちは土に触れる。チベットの人々が故郷に思いを馳せるこのイベントは延々と続き、終了後はおのおのが土を持ち帰った。20トンもの土がきれいに、あっという間になくなったという。
芸術は、社会に大きな影響を与えることができる。このドキュメンタリーを観ることで、そう確信した。
(2013年10月19日)


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