So-net無料ブログ作成
アラブ ブログトップ

フランスのマグレブ系二世俳優たちが栄光に輝いた「デイズ・オブ・グローリー」 [アラブ]

東京のアラブ映画祭2008で上映されたアラブの新作のなかで、白眉の出来だったのは、間違いなく「デイズ・オブ・グローリー(Indigènes:原住民たち)」(06)だ。アルジェリア=フランス=モロッコ=ベルギーの合作ということだが、省略して言えば、フランス映画ということでいいだろうと思う。物語の時代は第二次世界大戦の最中、描かれるのは、アルジェリアやモロッコなどの植民地から“フランス兵” として立ち上がり闘ったマグレブの男たちだ。アルジェリア系フランス人のラシッド・ブシャール監督の視線の先にあるものは「忘れられたフランスの歴史」ではあるが、それはイコール「アルジェリアの歴史」であり「モロッコの歴史」である。
この「デイズ-」は前年11月の第14回大阪ヨーロッパ映画祭で日本初上映された後にDVD発売されたものだが、劇場公開されていないので、今回はデジタル上映とはいえ、貴重なパブリック・ビューだった。じつは今月22日(木)には、午前0:30からWOWOWでも放送される予定である。
まず特筆すべきことは、これがカンヌで絶賛された男優賞受賞作品だということだ。「ダ・ヴィンチ・コード」や「バベル」が話題を集めた2006年、第59回カンヌ国際映画祭では、出演している6人の女優すべてに最優秀女優賞が贈られたペドロ・アルモドバル監督の「ボルベール~帰郷」には残念ながら人数の上で負けるが、この「デイズ・オブ・グローリー」も、異例なことに5人の共演者がそろって主演男優賞同時受賞を果たした、マグレブの俳優たちが身をもって紡いだ渾身の力作なのである。
「TAXi」で主役に抜擢されて一躍スターになったサミー・ナセリ(アルジェリア映画「インターネットの扉」にも登場)、「アンジェラ」で主役を張ったジャメル・ドゥブーズ、「約束の旅路」にも出ていたロシュディ・ゼムなど、フランス映画ではお馴染みの、マグレブ系二世三世の俳優たちに華麗にスポットライトがあてられたのだ。大統領自身がハンガリー系移民二世であり、大臣にもセネガルやモロッコ、アルジェリア系と広く起用され、四人にひとりが移民もしくはフランス以外の血が流れているといわれている同国においては、異邦人たちが文化を多様化活性化してきたところもある。今回男優賞に輝いた5人の主演者たちも、映画界芸能界においては普通に重要なポジションを持っており、それらの活動に対する評価が男優賞という形でカンヌで結実したわけである。
そういう、異邦人たちがフランスを支えてきたということを、戦争という舞台の上でこの映画は語るのだが、物語の内容は、これから放送予定でもあることから、筆者自身もう一度観返して反芻しようと思うので、概略にとどめておく。
第二次大戦中の1943年、ドイツ軍の侵攻から祖国を解放するために、マグレブのフランス植民地モロッコやアルジェリアから多くの歩兵が集められた。映画は、それまで“祖国”フランスの地を踏んだことすらなかった4人の若きアラブ兵士たちが、人種差別に直面し、植民地生まれの出自を隠して指揮する軍曹との葛藤を重ねながらも、ついには戦火の激しいドイツとの国境アルザスで、身を張ってナチスの手から祖国フランスを守らんとする、勇ましくも哀しいその姿を描写している。
エンディングでは“戦後いまだに旧植民地出身の退役軍人たちには恩給が支給されていない”と提起されるが、アラブ映画祭の会場で配られていたセルDVDのチラシによると、300万人を超えるフランスでの大ヒットにより、2006年9月に当時のシラク大統領が恩給を改善したという後日談があるとのことだ…。
ちなみに、「トゥヤーの結婚」や「Desert Dream(Hyazgar)」も出品された昨年の第57回ベルリン国際映画祭でみごと銀熊賞(監督賞)を受賞したイスラエル映画「ボーフォート~レバノンからの撤退」(07)も、東京の劇場でプロジェクター上映された後にこの度DVD化された。舞台はイスラエル占領下のレバノン、ボーフォート基地のイスラエル兵たちの苦悩を、自らの実体験を絡めてユセフ・シダー監督が描いた傑作である。
奇しくも、カンヌ、ベルリンで脚光を浴びて受賞を果たした戦争ドラマの力作が相次いで、ほとんど劇場公開されずにDVDスルーでリリースされたわけである。情報過多な今の時代のなかでは、よほど注意しておかないと、見過ごしてしまいそうなことでもあるので、あわせて記しました。
(2008年5月3日)

nice!(0)  トラックバック(0) 

チュニジア発、抱腹絶倒のヒーロー映画。大真面目な馬鹿馬鹿しさに注目! [アラブ]

アラブ映画祭2008では、「VHSカフルーシャ~アラブのターザンを探して(V.H.S.- Kahloucha)」という題名の、チュニジア発の奇怪な映画に出会った。ノーマークの作品だったので、正直ビックリ! ブッたまげた! チュニス生まれのナジーブ・ベルカーディー監督によるドキュメンタリー作だが、本作の場合、このナジーブ監督の力量云々を考えるわずかな暇も与えない。ただひたすら大真面目に繰り返されるお馬鹿な現実が、とにかく観る者を唖然とさせる。ここに登場する実在の人物カフルーシャ、何者だお前は! これでもかこれでもかと解き放つ、彼の強烈な狂気のパワーに対して、筆者は大傑作として☆5つを献上したい。なぜならば、この男カフルーシャ自身が超インディペンデントの映画人だからである。
スーサの街に住む中年男カフルーシャは、ペンキ塗りの職人でありながら、映画スターである(と本人は自認している)。自分自身を、チュニジアのアラン・ドロンであり、ジャン・ポール・ベルモンドであり、クリント・イーストウッドであり、チャールズ・ブロンソンであると信じて疑わない。自分でシナリオを書き、隣人や知人を口説いてはキャスティングし、ヒーローもののビデオ映画を撮ることに憑りつかれている。もちろん、監督・主演はカフルーシャだ。自作自演なのである。あまり美女にも見えない女性をヒロイン役にと、執念で口説き落とす。その女性もキスシーンも露出もNGよ、なんていいながらしぶしぶOKするが、そこまでの交渉のやりとりが面白いだけで、実際のシューティングの内容は、こどものママゴト程度にしか見えないお粗末なものである。
ターザン役の場面では、剥製の狼を相手に、一人芝居の大格闘を演じる。一方で、溺れている人を救うシーンは、何ともグダグダで、無許可のゲリラ撮影なので叱られる始末である。しかし彼には映画作りに対する恐るべき執念がある。銃で撃たれた傷口という設定では、本当に腕を切りつけて、出したその血を塗りたくる。火災の場面では、本当に自宅を燃やしてしまう。映画の小道具を、市場で値切りたおすという何ともセコい一面も見せるが、老いた母にとっては、カフルーシャは自慢の息子である。
カメラマンやビデオ編集を担当する仲間とは、激しく熱い口論を繰り広げるが、(監督の)カフルーシャは決して信念を曲げない。そして自分の才能には絶対の自信がある。
では完成した作品をどうするかというと、宣伝、公開も彼自身のビジネスである。意外と街では人気があって、ビデオレンタルの希望もあがってくるのだが、海賊版が流通することを大いに恐れている彼は、貸し出しが一晩越すことを決して認めない。本当にカフルーシャという男は、驚愕に値する自惚れやである。
最後まで見通すと、これは本当に事実の話なのか、作り話ではないのかと疑ってしまう気持ちも少しは出てくるが、それがどっちだろうと、“チュニジアのイーストウッド”気取りのカフルーシャが、この作品「VHSカフルーシャ」においては、非常に優れた主演男優であることには間違いない。
チュニジアに奇人が存在するという現実、これは“不都合な真実”ならぬ“都合のいい真実”である。
(2008年4月24日)

nice!(0)  トラックバック(0) 

アラブの新作~レバノンの吸血鬼ムービーと珍しいバーレーン映画 [アラブ]

アラブ・アジア文化交流協会(ADAD)のナジーブ・エルカシュ氏から、アラブの新作DVD2作品を借りて、観た。
ひとつめ、Ghassan Salhab監督のレバノン・フランス合作映画「The Last Man」は、第20回シンガポール国際映画祭でも上映された2006年作品である。同監督の3作目で、舞台はイスラエルとの紛争の傷跡が決して消えることのない街ベイルート。ある中年医師のまわりで、不可思議な連続殺人事件が起こる。犠牲者の首筋には吸血鬼の仕業らしき痕が。物語はこの医師を中心にミステリアスに展開していく、暗黒街を彷徨う彼は犠牲者なのか、それとも加害者なのか…。野心作だが、この医師と、多くの血を流してきたアラブの地とを重ね合わせようとする作者のメッセージが、少し見え過ぎて残念。
一方で、奄美王島ほどの小さな島国バーレーンで製作された映画は今回初めて観た。Bassam Mohammed Al Thawadi監督の「A Bahraini Tale」(06)。資料によるとこれはバーレーンで製作された3本目となる劇映画で、それらはすべてBassam Al-Thawadi監督によるもの。すなわち彼がバーレーン唯一の本格的映画監督ということになる。しかし国際的にはまだ水準が低いといわざるを得ない。
1967年第三次中東戦争下から、1971年にバーレーンが独立するまでの、とある中流の家庭(それは典型的で、暴君的な家長と抑圧された妻や娘たちといった構成)を、エジプトのリーダー、ナセルに対する希望を失っていくアラブ世界に重ねて描いている。アラブの記憶を民衆の生活に絡めて辿る作品でいえば、シリアの女優であり監督、ワーハ・アル=ラーヒブの「夢と現実の日々」(03)の方がもっと良い。
(2007年6月29日)


nice!(0) 
アラブ ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。